2021年10月の記事一覧
礼儀における「心」と「形」
◆礼儀における「心」と「形」◆
●「礼儀」について書かれたいくつかの書籍を目にする機会がありました。●本日は、その内容を紹介します。
●日本の礼儀作法の原点は武家社会で確立されたと言われています。●時の権力者が儀式を通して、礼儀作法を武士たちに教え、社会や人間関係を円滑に成り立たせようとしたことが始まりです。●食事の仕方や手紙の書き方、教養として身に付けておきたい事柄などの礼儀作法は、元々は公家文化の作法であり、それが武士が台頭し始めた時代、つまり室町時代に武士を中心に一般的に確立されたと考えられています。●また、その礼儀作法は時代を経るにつれ、完璧な「形」を求めていたものが、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」を大切にする考え方に変化していったようです。●そして江戸時代に儒教の影響を受け、現在に通じる礼儀(「心」)を現すための「形」の原型が形作られていくのです。●日本にこうした「心」を「形」にする作法があるように、西洋にはマナーがありますが、目指すところは同じであり、互いに心地よく過ごすためのものであることには変わりはありません。●ただ、日本の場合は、「相手を慮(おもんぱか)る」ことを優先するという自己抑制力が強く働くことに特徴があるようです。●だからこそ、日本人のコミュニケーションには、すべてを表現しないところに美しさを求めているのです。●それを「遠慮」という言葉に置き換えることはできますが、「遠慮」は決して我慢をすることを意味してはいません。●遠くを慮って表に現さないことで、相手に負担をかけず、最終的に相手の心地よさや自分の幸せ(心地よさ)につなげているのです。
●小笠原流礼法・宗家の小笠原敬承斎さんが、次のようなエピソードを語っていました。●先代から、お焼香の作法を習ったあるお弟子さんがいました。そのお弟子さんが「お葬式の時、先代からお焼香の作法を学んでいたおかげで恥をかきませんでした」という旨の話をしたそうです。●それを聞いた先代は、「作法とは、悲しい気持ちを持って遺族や周りの人に失礼のないように故人を悼む、ということを含めてのものです。自分がどう美しくできたかにポイントが置かれた心根は、礼法に反しています。」と、非常に厳しい言葉で諭したそうです。●礼儀とは、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」なのですから、まずは亡くなった方へ「心」を寄せる思いこそが大切であり、そこで相手の方々が不愉快な思いをしないための基準としての礼儀作法があることを端的に表した話だと感じました。
●本市では平成25年度から、学校教育を中心に「ABC/R」運動を展開しています。「R:立腰(正しい姿勢)」を中核として、「A:あいさつ」「B:時間前行動」「C:環境を整える」をスローガンに、明日を担う子供たちに社会の一員として豊かに生きるための基礎的資質を培うための運動です。●これらの運動においても、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」がベースとして展開されなければ、運動自体が形骸化してしまうのではないかと危惧しているところです。●周囲の大人から言われるからという「形」だけの「あいさつ」、「時間前行動」、「環境整備」から、その「心」を大切にした子供たちの姿を描きながら、日々の声かけを続けているところです。