2021年7月の記事一覧
ちょっと一息(お勧めの1冊)
ちょっと一息(お勧めの1冊)
著書名:『わたしを離さないで(Never let me go)』 作者名:カズオ・イシグロ
●本日は、カズオ・イシグロさんが著した『わたしを離さないで(Never let me go)』を紹介します。ノーベル文学賞を受賞した作家であり、2011年に映画化もされているので、ご存知の方も多いかも知れません。長編となりますが、私のお気に入りの1冊ですので、ご紹介いたします。
●「ヘールシャム寄宿学校」に隠された奇妙な真実が「キャシー・H」という女性によって語られます。ルースやトミーとの忘れ得ぬ思い出の物語です。●キャシーは「介護人」として働き、年若くしてその職を辞そうとしています。●イギリスの曇天を想起させる、おそらくは寒々とした片田舎を舞台に、こども時代を回想する当たり前の始まりが、胸をえぐられるような結末になろうとは想像もできません。●ヘールシャムの描写、その思い出は、行ったことも、見たこともない場所ですが、なぜか郷愁の念を感ぜずにはいられません。しかしながら結末を迎え、改まってヘールシャムの美しい思い出の地を思うと、恐ろしささえ漂ってきます。●本作品は、過去のキャシーとともに、隠されていた真実を探す「旅」なのです。●正しいのはルース先生かエミリ先生なのか。はたして徐々に運命が明らかになるという方法は「提供者」を幸せにするのでしょうか。●コテージで自発的に「介護者」になる道を選択させるしくみは残酷ではないでしょうか。●ノーフォークへの小旅行のエピソードで、いよいよ隠された秘密の確信が明確になってきます。私たちは、その真実に気付き始めたとき、心を痛めずに先を読み進めることなどできないはずです。●キャシーの語りは常に淡々としていています。そして何気ない会話や動作に潜む相手の心を的確に捉えます。しかし決して無感情なのではなく、むしろそこには「最期」という瞬間を起点に、「生」を見つめる眼差しが感じられます。過ぎ去っていく者たちへの愛情すら垣間見られます。●登場人物たちの微妙な心理の揺れ動きが、細やかに描かれた作品です。●抗えない運命、そして置かれた状況を受け入れて過ごす日々、自分や他人の感情の起伏に戸惑いつつも愛することの希望を失わない、そんな姿が静謐なタッチで生き生きと描かれています。●はたして「介護人」とは「提供者」とは、どんな意味をもつ「ことば」なのでしょうか。ぜひ、その謎解きをしてみてはいかがでしょいうか。
イチローさんの言葉
●鈴木一郎(イチロー)さんの言葉
●本日は、プロ野球で大活躍をしたイチローこと「鈴木一郎」さんの言葉を紹介します。●鈴木一郎さんの業績、そして日本球界をはじめメジャーリーグに刻んだ燦然たる記録については、私から改めて申し上げることもないでしょう。●鈴木一郎さんのことを「天才」と称する方々も多くいられますが、そんな称賛の言葉に対して鈴木一郎さんは、「自分の可能性を信じ、夢をもち、それを目標に変えて、日々、努力してきた結果が今である。努力した結果、何かができるようになる人のことを『天才』というのなら、僕はそうだと思う。」と応えています。●そんな、鈴木一郎さんの言葉から、本日は、目標を達成させる(努力し続ける)ためのヒントとなる言葉を紹介します。
1 夢は近づくと目標に変わる
2 夢や目標を達成するには1つしか方法がない。小さなことを積み重ねること
3 今、自分にできること。頑張ればできそうなこと。そういうことを積み重ねていかないと遠くの目標は近づいてこない
4 ここまで来て思うのは、まず手の届く目標を立て、ひとつひとつクリアしていけば最初は手が届かないと思っていた目標にもやがて手が届くようになる ということですね
5 高い目標を成し遂げたいと思うなら、常に近い目標を持ちできればその次の目標も持っておくことです。それを省いて遠くに行こうとすれば、挫折感を味わうことになるでしょう。近くの目標を定めてこそギャップは少ないし、仮に届かなければ別のやり方でやろうと考えられる。高い所にいくには下から積み上げていかなければなりません
6 苦しみを背負いながら、毎日小さなことを積み重ねて、記録を達成した。苦しいけれど、同時にドキドキ、ワクワクしながら挑戦することが勝負の世界の醍醐味
7 そりゃ、僕だって勉強や野球の練習は嫌いですよ。誰だってそうじゃないですか。つらいし、大抵はつまらないことの繰り返し。でも、僕は子供のころから、目標を持って努力するのが好きなんです。だってその努力が結果として出るのは嬉しいじゃないですか
8 努力せずに何かできるようになる人のことを『天才』というのなら、僕はそうじゃない。努力した結果、何かができるようになる人のことを『天才』というのなら、僕はそうだと思う。人が僕のことを、努力もせずに打てるんだと思うなら、それは間違いです
9 アップの時には全力で走るとか、早く来て個人で練習しているとか、そんなことは僕にとって当たり前のこと
●鈴木一郎さんは、夢をもつこと、その夢に向かって何事も前向きに行動することで可能性が生まれ、それが現実的な目標となる。そして、その目標を達成させるためには、スモール・ステップが重要で、目の前の小さなことから、こつこつと努力を積み重ね、次のステップへと進めていく。努力をすることは、時に苦しみを感じるけれども、それにワクワクしながら挑戦し続けることが大切だと述べています。●鈴木さんの、「僕は子供のころから、目標を持って努力するのが好きなんです。だってその努力が結果として出るのは嬉しいじゃないですか。」の一言に、日本球界ばかりかメージャーリーグでも名の残す名選手の一人となった、そんな成功の秘訣があるのだと改めて感じました。●子供たちが自分の「夢」や「目標」を実現させられるよう、子供たちが目の前にある、今できること、やらなければならいことに気付けるよう、私たち大人が声をかけ、支えていく必要があるのだと感じています。
ちょっと一息(お勧めの1冊)
ちょっと一息(お勧めの1冊)
著書名:『そこに僕はいた』 著者名:辻仁成
●本日は、辻仁成さんが少年時代に出会った人々、友人との出来事を18編のエッセイにまとめた『そこに僕はいた』です。●「少年、辻仁成さん」の心の揺れ動き、そして内面的な成長の過程が描かれています。●作品を読みながら、思わずにやけたり、恥ずかしくなったりするような出来事を思い出すかも知れません。例えば、好きな女の子に嫌がることばかりしてしまったこと、好きな女の子のことばかり考えて過ごしたこと、またマドンナに憧れたことなど、異性への淡い思い出が皆さんにもありませんか。●思春期を迎えた男の子の心と体のアンバランスさ、心理状況についてもユーモアを交えた軽快なタッチで描かれています。●さらに高校時代の若者が抱く夢や不安についても、多くの高校生の気持ちを代弁しているかのようです。●私が本著で最も好きな章は、著書名ともなっている「そこに僕はいた」です。僕(辻仁成さん)が小学校3年生の頃に出会った、片足のあーちゃんとの関わりを書いた章です。僕を取り巻く心ない大人たちの言葉、あーちゃんとのエピーソード、そんな出来事を通しながら、僕の気持ちの変化や心の成長が巧みに表現されています。辻仁成さんの鋭い感性と優しさが伝わってきます。●本著は、皆さんにとって、小学生や中学生、高校生時代を懐かしむことのできる1冊となります。自分の少年時代を思い出し、郷愁に耽る時間をもつことは、多忙な毎日の清涼剤となることでしょう。
大岡信さんの言葉
●大岡信さんの言葉
本日は、詩人の大岡信さんの言葉を紹介します。大岡信さんと言えば、28年の長き渡り、朝日新聞の朝刊に連載したコラム『折々のことば』が有名です。私は、毎朝、大岡さんの『折々のことば』に目を通すのが日課でしたので、大岡さんが亡くなられ今、それがかなわないことが残念です。本日紹介する言葉は、中学校2年生の国語科教科書に掲載された『言葉の力』からです。
『言葉の力』から
人はよく美しい言葉、正しい言葉について語る。しかし、私たちが用いる言葉のどれをとってみても、単独にそれだけで美しいと決まっている言葉、正しいと決まっている言葉はない。
ある人があるとき発した言葉がどんなに美しかったとしても、別の人がそれを用いたとき同じように美しいとは限らない。
それは、言葉というものの本質が、口先だけのもの、語彙だけのものだはなくて、それを発している人間全体の世界をいやおうなしに背負ってしまうところにあるからである。
●大岡信さんは、京都の嵯峨に住む染織家志村ふくみさんとの会話から、桜の花びらのピンクは、実は、木全体(桜は、春先になると幹や樹皮、樹液までがピンクとなる)で懸命になって最上のピンクの色を作り出し、ほんの先端だけその姿を出していることを教えられます。つまり、私たちの限られた視野の中では、桜の花びらに現れ出たピンクしか見えませんが、木全体の一刻も休むことのない活動の精髄によってあのピンクが現れているのです。●大岡さんは、この話から「言葉」も実は桜の花びらのピンクと同様に、美しい言葉、正しい言葉とは、表面的な美しさや正しさではなく、それを発した人の思い、気持ち、その基盤となる人間性によるものだと述べています。●私たちは、一語一語のささやかな言葉のささやかさ、そのものの大きな意味を実感していく必要があるようです。●そのためにも、たった一つの言葉を発するにも長い時間をかけ、時に我慢をする覚悟が必要です。●美しい言葉、正しい言葉というものは、その言葉を発する人の芯(幹)が美しく、正しくなければ、美辞麗句としかなり得ないからです。●このことは、私たち人間が、「言葉」の世界を背負っていると言っても過言ではないということです。●大岡信さんの『言葉の力』に触れ、改めて「言葉」の重み、大切さを感じています。
徳冨蘆花さんの言葉
本日は、明治時代から大正時代にかけて小説家として活躍した徳冨蘆花さんの言葉を紹介します。徳富蘆花さんは、『不如帰(ほととぎす)』を著し、当時の大ベストセラー作家の一人でした。そんな徳冨蘆花さんが、「欠点(短所)」について述べた次の言葉は、私たちの生き方のヒントになるかも知れません。そんな言葉を紹介します。
欠点は常に裏から見た長所である。
徳冨蘆花さんは、「欠点(短所)と感じていることも、見る人が異なれば、それが長所となり得る。」と行っています。つまり、欠点(短所)も、時が変われば、場所が変われば、そして人が変われば、長所となり得るということです。つまり、自分が短所と感じていることが、相手によっては、なくてはならない長所になるかも知れないということです。そう考えると、私たちは、自分が感じている「長所」に自信を持ち、それをひたすら伸ばす努力をすれば良いのだし、「欠点(短所)」だと考えていることは、今はそのままにしておいて、無理に直そうとする必要もないのです。その「欠点(短所)」が素晴らしい、いいねと言ってくれる相手が、気づかせてくれる友達が現れたら、自分の「欠点(短所)」について、もう一度考え直してみるという生き方も良いのかもしれませんね。
ちょっと一息(お勧めの1冊)
ちょっと一息(お勧めの1冊)
著書名:『源実朝』 作者名:吉本隆明
本日は、批評家である吉本隆明さんが著した『源実朝』を紹介します。この本に出会うまで、私が「源実朝」について知っていたことは、中学校の社会科で習った「鎌倉幕府の3代将軍であった源実朝は、公暁(2代将軍頼家の子)に鶴岡八幡宮で暗殺されました。27歳という若さでした。そのときの執権、北条義時の策略によるものです。」この程度でした。しかしこの著書に触れたことにより「史実としての実朝像」が明確となりました。吉本隆明さんは、『愚管抄』や『吾妻鏡』の内容を踏まえ、時に引用しながら、「何故、実朝は暗殺されなければならなかったのか」を史実に沿いながら、丁寧かつ明確にその答えを導き出しています。もちろん父である「頼家」が、伊豆修善寺で、北条時政の刺客によって惨殺された背景についても解き明かされます。また、私は、「鎌倉幕府を開いた源頼朝の子(頼家)、孫(実朝)が、何故、北条氏によって殺されなければならなかったのか。何故、時代はそれを許したのか。それだけ頼朝の妻である北条政子の影響力は絶大であったのか。」という疑問をかねてから抱いていましたが、この著書により、「封建社会(国家)における家長制度の変遷」にその答えがあったことも明らかとなりました。当時の社会情勢をはじめ、この時を生きた人々の息吹、そして「源実朝像」が浮き彫りにされた本著は、歴史が好きな方には、ぜひお薦めした1冊です。また、「源実朝」は後世に名を残す『金槐和歌集』を編纂した人物(天才的歌人)としても有名です。吉本隆明さんは、「実朝」と和歌についても詳細に分析をしています。『万葉集』や『古今和歌集』など和歌集をふまえながら、「実朝」の歌には独特な心が表れていると評価しています。和歌に詠まれた事物や心情から、日本人の感性の変遷にも触れていますので、和歌に興味がある方にもお薦めです。鎌倉の寿福寺には「源実朝」のお墓があります。「乳房吸ふまだいとけなきみどり子の共になきぬる年の暮かな」という歌を詠んだ「実朝」の心の悲しみに触れてみてはいかがでしょうか。
橋本左内さんの『啓発録 五訓』
橋本左内さんの『啓発録 五訓』
橋本左内さんは、小さい頃から、「自分に足りないもの何か、弱点は何か、そのためにはどう改善したら良いか。」と考えながら、自己の存在を客観的に分析した人物のようです。そして十五歳の時に、自分自身の人生訓として、これから立派な大人になるための心得を「啓発録」として書き上げました。本日は、「啓発録」の五つの教訓を紹介します。
啓発録 五訓
1 「稚心を去る」
2 「気を振う」
3 「志を立つ」
4 「学を勉む」
5 「交友を択ぶ」
●「 稚心を去る」ですが、「稚心」とは子どもっぽい心のことです。橋本左内さんは「自分とその運命を変えようと思うなら、結局、自分の手で何とかする以外に方法はない。」と語り、親への依存心、子どもっぽい遊びと決別し、己を研鑽することを誓います。●「気を振う」とは、とにかく他人に負けるなということです。他の人にできるなら、己にもできるはずだということです。どんな困難にも真摯に立ち向かおうとする橋本左内さんの決意が表れています。●「志を立つ」とは、自分の人生の目標を決めるということです。先人、偉人の生き方、言葉を習い、それを学び、自分に足らないものを埋めていく大切さが述べられています。●「学に勉む」は、立派な人物の行いを学び、親孝行するとともに、人生の目標を達成するまで常に学び続けること、それを世の中のために正しく生かすことを橋本左内は誓っています。●「 交友を択ぶ」は、互いに切磋琢磨できる良き友を選ぶことが必要だと言っています。自分を高めて、心から尊敬でき、何かあった時に、真剣に心配してくれる友達こそ、何よりも大切なのです。また、その友人が間違った道に行ってしまったら、それを正しい道に引き戻すのも使命であると書いています。
●橋本左内さんは、十五歳という人生の節目に立てたこの誓いを守り、短い人生ながらも素晴らしい人材として、教育や政治に大きな成果を残しました。
井深大さんの言葉
井深大(いぶかまさる)さんの言葉
本日は、日光市出身の電子技術者であり、実業家である井深大さんの「若者」に向けたメッセージを紹介するとともに、家庭教育の大切さについて述べた言葉を紹介します。井深大さんは、盛田昭夫さんと共にソニーの創業者の一人として知られる方です。井深大さんは発明の才に恵まれた人物で、大学在学中にパリ万博で優秀発明賞を受賞しています。テープレコーダーやトランジスタラジオの開発に始まり、「ウォークマン」を大ヒットさせたことは有名です。
若い方々にぜひ伝えたいことが、 二つあります。
1 自分自身を大切にすること、自分を生かすということと合わせて、それと同じくらいのウエイトで、他人のために、社会のために何かできることはないか、ということを考えていただきたい。また、そういう気持ちを、ぜひ持っていただきたいということです。
2 しっかりした生きるよりどころを、ぜひ持ってもらいたいということです。
●「自分自身を大切にする」、「自分を生かす」ためには、自尊感情を高め、自己の存在意義に気づく必要があります。そのためには成功体験が必要となります。「~をしたい。」、「~を目指す。」と言った思いを達成する体験の積み重ねや承認されるという経験があって、初めて自分に自信が持て、自信が持てれば自分の良さにも気づくことができると考えるからです。しかし、より自尊感情を高め、自己の存在意義を見出すためには、失敗を繰り返しながらも、その状況にくじけず、粘り強くやり通した結果の上で得られた成功体験とそれを認められることが必要ではないでしょうか。産みの苦しみから生まれた成功体験は、大きな自信と自分の良さに気づくきっかけとなるからです。「失敗は成功のもと」という諺にあるように、このことについては、多くの先人、偉人の名言の中にも見られる考え方です。井深さんも「トライ・アンド・エラーを、 繰り返すことが経験、蓄積になる。 独自のノウハウはそうやってできていく。」という言葉を残しています。
●そして、井深さんは、「自分を大切にする」と同様に、「他人を社会を大切にする」ことが重要だと述べています。「他人のために、 社会のため」に何かをしようとする思いを持つ必要性についても、多くの先人、偉人が述べているところです。人は一人だけでは生きていくことはできません。家族があり、身内があり、地域があり、そしてそういう集団の集合体として「社会」があるのです。互いに相手を認め、尊重し、そして協力し合ってこそ、「社会」という共同体は、初めて機能するのです。そこに自己の存在意義を見出す大切さが語られているのではないでしょうか。
●また、井深さんは「自分を大切にし、自分を生かし、そして他人や社会のために生かす」ためには、「しっかりした生きるよりどころ」を持つ必要があると述べています。子供たちは、その「生きるよりどころ」をどこから見つければ良いのでしょうか。井深さんは、それは身近な大人、特に親の生き方だと述べています。井深さんが残した別の言葉には、
・人間として守らなければならないことは、親がいつも率先してお手本を示しながら、子どもにも守らせること。理屈でなく行動で教えること。
・0歳から始まる、よい習慣のくり返しだけが、人間をつくる最大条件であろう。しかも、親の意識と努力と忍耐だけが、それを可能にするのである。
・両親がひたむきに生きる姿自体が、どんな幼い子にも、素晴らしい影響を与えるのです。
・多くの場合、1歩先を歩む身近な先達は、子どもの成長進歩にとって教師よりも大きな刺激となる。親が先達の1人として、子どもの好ましい競争者になりえたら、それに勝る教育法はないだろう。
・立派な人間になるための一つの条件は、 自分が心から尊敬できる人を持つこと。
●などがあります。今まで、幾人かの先人、偉人の言葉を紹介してきましたが、その語る真義は、どこか似ているところが多くあると感じているところです。
ちょっと一息(お勧めの1冊)
ちょっと一息(お勧めの1冊)
著書名:『ライ麦畑でつかまえて』 作者名:J.D.サリンジャー
●本日は、J.D.サリンジャー(アメリカ合衆国)の『ライ麦畑でつかまえて』を紹介します。●この本は、全世界で6000万部以上を売り上げ、現在でも毎年約50万部が売れていると言われています。●この小説がこれだけ世界的にヒットしているということは、社会の不条理さに憤り、大人になることへの抵抗を抱くホールデン・コールフィールド(主人公)の言動に共感する人がそれだけいるからではないでしょうか。●誰しも他者を嫌悪し、自分を嫌悪し、これと言った明確な理由もなく苛立ち、何もかににも抵抗したくなるような気持ちで過ごした、そん思春期と呼ばれる時期があったろうと思います。●正にホールデンは、思春期の真っ最中の16歳。●自分の周りにはびこる違和感(欺瞞、無神経、虚偽、虚飾など)に怒り、憎悪し、抵抗して、失望する。そでもなお、他人を求め、救いを期待するという内容が、彼の目線で描かれた書簡体小説となって描かれています。●多くの人が10代の頃に持っていた若々しさを余すことなく閉じ込めた、そんな青春文学です。
●それでは、簡単なあらすじを紹介します。●成績不振によりホールデンに、在籍している名門私立高校を放校処分(退学)となる決定がおります。●ホールデンは、先生や寮の仲間と良い関係を築こうと努力をするのですが、周囲の人間の理不尽さにうんざりしてしまい、追い出される前に学校(寮)を飛び出してしまいます。●ホールデンは、両親に高校を放校処分となったことを伝えることができません。●自宅のあるニューヨークには戻りますが、自宅に戻ることができず、ホテルを転々とする放浪生活を始めます。●ホールデンいわく、ニューヨークは「インチキで汚い世界」でした。●その醜さと孤独に絶望し、退廃した生活を送るのですが、そんな生活の中でも、どこか他者を求め続けるホールデンがいるのです。●思春期特有の他人に対して見栄を張りたい、そして虚偽を憎み真実を愛するといった、二つの気持ちの間でホールデンの心は揺れ動き続けます。●そんなホールデンにとって、二人の修道女との出会いは、自己の存在価値を見出すきっかけとなります。●そしてホールデンは、目先の利益と無関係に生きている者たちの世界に希望を見出し、自分もそこの住人になりたいと考えます。●しかし、現実社会は、相変わらず目先の利益を追い求める人々ばかりです。そんな人々の多さに、ホールデンは、再び辟易してしまうのです。●そんな社会に生きづらさとあきらめを感じてしまったホールデンは、己の憧れる純粋無垢な世界で生きるために、人里を離れ、口がきけない、耳も聞こえない者ととして一生暮らして行こうと決意するのです。
●「嫌悪」、「憎悪」、「退廃」などといったキーワードが出てくる作品ではありますが、全体的に透明感が漂い、軽やかなリズムを感じる作品となっています。●ホールデン・コールフィールドという主人公が持つキャラクター性によるものからでしょうか。●私は、大学生の時にこの本を読みました。●ホールデンの内面の葛藤を理解できると感じる反面、現実社会の様々な不合理に対して、適当に折り合いを付けてなんとか上手く生活している自分の存在を痛感しました。●自分には今の生活を捨てる勇気などないので、ホールデンのような生き方に一種の憧れを抱き、押さえがたき震えを覚えたことを鮮明に記憶しています。●一方、折り合いを付けながら生きているそんな自分への安心感という相反する感情が、そのときになぜか湧き上がりました。●20歳という思春期を過ぎてから、『ライ麦畑でつかまえて』を読んだからでしょう。●『ライ麦畑でつかまえて』は、1951年に書かれた作品ですが、青春時代の葛藤はいつになっても決して色褪せません。●皆さん、かつての青春時代を垣間見るのも一興です。手に取ってみてはいかがでしょうか。
橋本左内さんの言葉
橋本左内さんの言葉
本日は、幕末時代の天才と称された橋本左内さんの言葉を紹介します。橋本左内さんは、子供の頃から頭脳明晰で「神童」と呼ばれた人物です。以前に紹介した緒方洪庵先生の適塾で学び、吉田松陰、西郷隆盛、藤田東湖らとの交流もありました。また、15歳で書いたとされる「啓発録」は現在も読まれています。「啓発録」は立志式の由来となっています。橋本左内さんは、安政の大獄の際、将軍継嗣問題に介入したことで斬首刑となり、26歳の若さで亡くなりました。そんな人生の大半を学問そして武道に励んだ橋本左内さんの「志(夢をもつ)」を立てることの大切さを述べた言葉を本日は紹介します。
志(夢をもつ)を立てる
1 偉人の経歴を読書により知って憧れること
2 師や友から聞いたことに発憤すること
3 自分が逆境に陥ったときに勇猛心を起こすこと
4 感激すること
の四つが志を立てる大きな理由となる
●現在は、AI時代が到来し、今まで通用していた常識や価値観が新たなものへと転換している、そんな変化の激しい時代となっています。今後は、さらに複雑化・多様化した予測困難な未来となるでしょう。●こんな新しい時代を生きている子供たちにとって「志(夢)」をもつことは、今まで以上に難しいものとなっています。●「夢」がない(もてない)と応える子供たちが増えてきていますが、「夢」をもてと言われても、簡単にもてないのは、ある面仕方ないことなのです。●しかし、多くの先人たち、偉人たちの言葉に見られるように、幸福になるために、自己を成長させるために、努力する力をもつためにも、「志(夢)」をもつことは大切です。●今こそ、子供たちには、「志(夢)」をもつためのヒントを示さなければならないのです。●橋本佐内さんは「志(夢)」をもつためのヒントとして、私たちの日々の生活(行為)の中から「志(夢)」は自然に生まれるものだと言っています。●一つ目として、先人、偉人の残した本を読み、その考え方や生き方に憧れを抱くことが「志(夢)」をもつ機会となると述べています。若者の読書離れが叫ばれる昨今ですが、やはり読書習慣を身に付けることは大切なのです。●二つ目は、親や先輩、友人から語られる言葉に耳を澄ますことで、勇気づけられ、「~をやりたい。~になりたい。」という気持ちが湧き上がってくると言っています。私たち大人が子供たちに、未来を夢見ることができる言葉を投げかけることは重要なのです。●三つ目は、辛く、苦しい状況になったときに、そこから抜け出すための強い心をもつ必要があると述べています。人間いざとなれば、奮起しなければいけないときがあります。そんな時の、もがきの中から考えたこと、行ったこと、あるいは周囲の人の手助けが夢につながると橋本さんは言っています。「志(夢)」をもつためには、粘り強さとか忍耐力といった人間性も育んでいかなければならないのです。●四つ目は、日々の生活の中で体験する様々出来事から「感動」を覚えることです。ここで大切なことは、その体験を振り返り、何が自分の心の中で起きたのか、何に感動したのか、その体験は自分にとってどのような意味をもつのか、などを考えることです。そのことで「体験」を「経験」へと昇華させ、初めて「感動」が「志(夢)」へとつながるのです。●橋本佐内さんのいう四つの教訓は、普段の生活の中で、子供たちが経験ができるものばかりです。子供たちが「志(夢)」をもつ機会を増やすことができるよう、周囲の大人の関わり方が大切なのだと感じています。
※橋本左内さんの「啓発録 五訓」については、機会がありました後ほど紹介いたします。