ちょっと一息(お勧めの1冊)
ちょっと一息(お勧めの1冊)
著書名:『遠野物語』 作者:柳田國男
●本日は、「日本民俗学」という新しい学問をつくった柳田國男さんの『遠野物語』を紹介します。●柳田さんは、幼いときから優れた記憶力を持ち、学校の成績も非常に優秀だったようです。●柳田さんの「日本民俗学」の原点は、自らが幼少期に体験した飢饉体験や故郷を離れて見聞きした庶民の暮らしや間引き慣習の悲惨さだったようです。●生活の中で生き続ける行事や昔話、伝承などを記録することの重要性に誰よりも早く気付き、それを後世に記録として残すという使命感をもって研究を進めた人物です。●『遠野物語』は、ザシキワラシやカッパ、神隠し、姥捨てなど、柳田さんの故郷である岩手県遠野に伝わる伝承を記録したものです。神への畏怖と感謝、祖霊への思いなど、日本人の死生観や自然観が凝縮された作品です。●作品には、田植えを手伝う神の話もあれば、子殺しの話など怖い話もあります。日本人の暮らしを、負の部分も含めて記録しているのが遠野物語の特徴です。それでは、いくつかのネタばらしを…。
●「ザシキワラシ」は、ザシキワラシが家を出たため、一家が毒キノコを食べて亡くなってしまう話です。ただ神から特殊な能力を授けられていた少女だけはひとり生き残ります。遠野の人々が神々とつながっていたことが語られた記録です。●「大津波」では、生きのこった男が亡くなったはずの妻に出会ったり、「戦地にいる兄」では、側にいるはずのない兄が現れたりという出来事が語られています。昔の遠野では、生と死の境界は曖昧で、行ったり来たり出来るものだったようです。このような臨死体験の話などには、そうした死生観が凝縮されています。●「オオカミと人間との戦い」は、オオカミの子を殺したため、怒った母オオカミが村の馬を殺すようになったという話です。自然界には、人間が立ち入ることのできない自然界ならではの掟があるのです。「自然への畏敬の念」そして「自然との共生」を図る人々の姿が描かれています。
●柳田國男さんの『遠野物語』には、「河童」、「オシラサマ」、「山男」、「マヨイガ」、「雪女」、「神隠し」など、怪異談が全部で119話が収められています。●身近な山や自然の霊的な存在、家の中に住む神様、自然の中に暮らす動物たちを主人公とした、古くから言い伝えられた多数の物語です。●自然への崇拝を忘れることなく、自然と上手に折り合いをつけながら暮らす遠野の人々の情感あふれた記録です。●私がこの作品を読んだのは、大学生の時です。ゼミの教授から薦められました。「恐れ(畏怖)」という感動を覚えたことを鮮明に記憶しています。●大学生であった30数年前、自ら運転する自家用車で遠野を訪れ、『遠野物語』の世界を自ら辿ったことも忘れることができません。●作品は文語体ですが、短編の話ですので、興味のある方は手に取ってみてはいかがですか。