ちょっと一息(お勧めの1冊)
ちょっと一息(お勧めの1冊)
著書名:『源実朝』 作者名:吉本隆明
本日は、批評家である吉本隆明さんが著した『源実朝』を紹介します。この本に出会うまで、私が「源実朝」について知っていたことは、中学校の社会科で習った「鎌倉幕府の3代将軍であった源実朝は、公暁(2代将軍頼家の子)に鶴岡八幡宮で暗殺されました。27歳という若さでした。そのときの執権、北条義時の策略によるものです。」この程度でした。しかしこの著書に触れたことにより「史実としての実朝像」が明確となりました。吉本隆明さんは、『愚管抄』や『吾妻鏡』の内容を踏まえ、時に引用しながら、「何故、実朝は暗殺されなければならなかったのか」を史実に沿いながら、丁寧かつ明確にその答えを導き出しています。もちろん父である「頼家」が、伊豆修善寺で、北条時政の刺客によって惨殺された背景についても解き明かされます。また、私は、「鎌倉幕府を開いた源頼朝の子(頼家)、孫(実朝)が、何故、北条氏によって殺されなければならなかったのか。何故、時代はそれを許したのか。それだけ頼朝の妻である北条政子の影響力は絶大であったのか。」という疑問をかねてから抱いていましたが、この著書により、「封建社会(国家)における家長制度の変遷」にその答えがあったことも明らかとなりました。当時の社会情勢をはじめ、この時を生きた人々の息吹、そして「源実朝像」が浮き彫りにされた本著は、歴史が好きな方には、ぜひお薦めした1冊です。また、「源実朝」は後世に名を残す『金槐和歌集』を編纂した人物(天才的歌人)としても有名です。吉本隆明さんは、「実朝」と和歌についても詳細に分析をしています。『万葉集』や『古今和歌集』など和歌集をふまえながら、「実朝」の歌には独特な心が表れていると評価しています。和歌に詠まれた事物や心情から、日本人の感性の変遷にも触れていますので、和歌に興味がある方にもお薦めです。鎌倉の寿福寺には「源実朝」のお墓があります。「乳房吸ふまだいとけなきみどり子の共になきぬる年の暮かな」という歌を詠んだ「実朝」の心の悲しみに触れてみてはいかがでしょうか。