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校長室から

ちょっと一息(お勧めの1冊)

◆吉本 ばなな『TUGUMI(つぐみ)』◆

●本日紹介するのは、吉本ばななさんが著した『TUGUMI(つぐみ)』です。●『キッチン』に続く第2作目で、山本周五郎賞を受賞しています。●作品は、12の連作短編集となっていますが、どこから読んでも楽しめる1冊ともなっています。●主人公は著書のタイトルともなっている「つぐみ」。●その「つぐみ」は病弱で長くは生きられないと宣告されています。●その「つぐみ」の姿を従姉妹の「まりあ」の視点で描いたエッセイ的要素を含ませた作品です。●実は「まりあ」にも、ちょっと訳ありの複雑な家庭事情があるのですが、その悲しさも辛さも垣間見せていません。●この作品の魅力には、このような構成の妙によるところも大きいのです。●「まりあ」は「つぐみ」が表出した言葉を語ります。行動を語ります彼女が目にした「つぐみ」の姿として物語が展開するのです。●また「まりあ」は「つぐみ」の心を、考えを、そしてその思いも語るのですが、それはあくまで「まりあ」を通した「つぐみ」の虚像です。●だから、時としてその「つぐみ」像は見事に裏切られます。●またそれは同時に、私たち読者が「つぐみ」に裏切られ、驚かされることにもなるのです。●では、吉本ばななさんの『TUGUMI(つぐみ)』を少しだけ紹介します。
●「つぐみ」の実家である旅館に「まりあ」が身を寄せます。ある一夏のことです。●「つぐみ」は容姿端麗ですが病弱で、小さい頃から甘やかされて育ちます。●「つぐみ」は「食うものが本当になくなった時、あたしは平気でポチを殺して食えるような奴になりたい。」と語る、ちょっと言葉が悪く、粗野で傍若無人な女の子です。●でも、強烈すぎる強さは、儚くて危ういものです
●我儘で自由奔放で癇癪もちの「つぐみ」の物語。●弱い身体に余る程の強い気性で家族にも誤解されている「つぐみ」の物語。●「つぐみ」、「まりあ」、「陽子」、「恭一」4の人が織りなす、一夏の青春物語。●夏の海辺の街が、そしてそこを歩く4人の姿が、その情景が脳裏に浮かぶ物語。●「つぐみ」と「恭一」の淡く、儚い恋の物語。●「恭一」の飼っていた「権五郎」という犬の連れ去られ事件。●その事件を発端とした、「つぐみ」の復讐劇。●そしてのその復讐劇の頓挫「つぐみ」の生と死。●病弱な少女から少しだけ大人へと成長していく切なく透明な物語。●「つぐみ」の純粋さと捻くれた優しさに気づく「まりあ」の物語
●「つぐみ」は、どこまでも真っ直ぐで、それでいて儚く消えてしまいそうな女の子です。●まるで「生の時間」とは別の場所にいるようで、なんとも不思議な雰囲気をもつ「つぐみ」に、機会がありましたら触れてみてはいかがでしょうか。