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校長室から

ちょっと一息(お薦めの1冊)

ちょっと一息(お薦めの1冊)
著書名:『死の瞬間~死とその過程について~』 
作者名:エリザベス・キューブラー・ロス

 

●本日紹介する本は、「死の五段階説」を提唱したエリザベス・キューブラー・ロスが著した『死の瞬間~死とその過程について~』です。初版は1969年で、2001年に新訳バージョンが、そのままの邦題タイトル「死の瞬間」で発刊されています。●「死の五段階説」とは、錯綜した経過を辿ることも見られるのですが、末期患者は「否認と孤立」→「怒り」→「取り引き」→「抑鬱」→「受容」という過程で死を迎えるという考えです。●本著は、200人以上の末期患者にインタビューを行い、患者自身の死に対する受け止め方や、医療従事者や身内の反応などが記(報告)されています。●したがって、著者であるキューブラー・ロスの死生観が述べられているのではなく、あくまでも死に瀕した人々が残してくれたメッセージとなっています。●だから、「否認と孤立→怒り→取り引き→抑鬱→受容」の5段階モデルについての説明は少なめで、理論よりも患者の語りからの理解に重きを置いています。●人は「死」を必ず迎えます。そしてそのことを誰もが知っています。しかし自分は「死ぬ」のではないかと感じたとき(自らの「死」を悟ったとき)、どうして自分が死ななければならないのかといった理不尽さを感じます。そんな矛盾に苦しむ患者の生々しい声が聞こえてきます。●末期患者の家族が、現実を直視できず、いやしたくないあまりに、患者と本音で話せないという事実も語られています。●また、最期を迎える患者が「望むこと」はどんなことなのでしょうか。「ありがた迷惑なこと」は何なのでしょうか。その答えが末期患者のインタビューを通して見えてきます。●その人の尊厳を守り、人間的な愛情を持った関わりを行う(医療機関が提供する)ためには、そんな患者の思い、願いを理解する必要があるようです。●「父が亡くなる前にこの本を読めばよかった。癌がわかってから亡くなるまでの4年間、父から一言も弱音を聞かなかった。強気だった父の本心を知る努力をすべきだった。私達には言えないこともあったかも知れない。」とは、ある方の感想です。

●本著は、日本にまだターミナルケアがほぼ認識されていなかった頃の、アメリカでの終末期ケアの記録です。●欧米文化の影響により、宗教の比重がある程度重く描かれて、日本の終末医療で神様に関する考えはここまで登場しないだろうと感じるところはありますが、数多くの末期患者へのインタビュー、そして観察を行ってきた記録ですので、感情論としての内容とは一線を画した作品です。
誰もがいつかは「死」を迎えるのです。また大切な家族もしかりです。「死を知る」とは、「死を受け入れる」とは、どういうことなのか、本書をもとに自分なりの「自分解」を具体的に実感してみては、いかがでしょうか。

ちょっと一息(お薦めの1冊)

ちょっと一息(お薦めの1冊)
著書名:『日本語練習帳』 作者名:大野晋


●本日紹介する本は、言語学者であり国語学者でもある、大野晋さんの著した『日本語練習帳』です。●大野晋さんは、橋本進吉(日本語文法を体系的にまとめ上げた、日本文法研究の第一人者)さんに師事し、上代仮名遣いの研究をすすめました。●また、日本語の起源や変遷についての考察、本居宣長の研究などでもすぐれた業績をあげています。●大野晋さんは、『日本語の起源』『日本語以前』『日本語とタミル語」など、後世に残る名著を多数著した人物としても有名です。
●ちなみに、日本語の文法体系論として代表的なものは、時枝文法(時枝誠記さんがまとめ上げた文法論)と橋本文法(橋本進吉さんがまとめ上げた文法論)がありますが、現在、小中学校国語科で取り扱っている文法論は、橋本文法となります。●私は、大学で「(国語学)文法論」を学ぶ過程において、大野晋さんの『日本語練習帳』に出会い、その著書の幾つかに触れることとなりました。●それでは、私の個人的な「思い出」も織り交ぜながら、大野晋さんの『日本語練習帳』のさわりをご紹介します。
●皆さんは、山田です。」と「山田です。」の違いを、明確に説明することができますか。また、山田です。」と「山田です。」あるいは「山田です。」の違いを説明することができるでしょうか。●日本語の「は」と「が」の違いについては、奥の深いものがあると感じませんか。●さらに、皆さんは「思う」と「考える」の違いを考えたことがありますか。通る」と「通じる」、「嬉しい」と「喜ばしい」の意味を正しく理解して使い分けていますか。またまた、大丈夫」の使い方を間違えてはいないでしょうか。●本著は、清少納言の枕草子で有名な「春はあけぼの, 夏は夜」を手本として、食堂での「私はうどん、貴方はタヌキそば」という会話の意味する根本的な違いなどに触れながら、言葉を敏感に捉える練習から始まって、文章の組立てや展開、そして敬語の基本など、練習問題に答えながら日本語を「トレーニング」出来るように作られた、まさに「練習帳と呼ぶべき1冊です。●つまり『日本語練習帳』は、日本語という慣れ親しんだ言語について、改めて「ことば」という視点から向き合う機会を私たちに与えてくれるのです。そして日本語の奥深さや面白さを楽しみながら、なおかつ文章が上達するように工夫された1冊となっています。●「まえがき」「Ⅰ 単語に敏感になろう」「Ⅱ 文法なんか嫌い――役に立つか」「Ⅲ 二つの心得」「Ⅳ 文章の骨格」「Ⅴ 敬語の基本」「配点表」「あとがき」という構成となっている本著は、単語の意味に敏感になることの大切さや、文章を書くためにはまず読み慣れることの必要性、文章を縮尺(要約ではなりません。まさに文章全体を網羅なく縮尺してまとめることです。)することの勧めが述べられています。
●私は高校生の時、「矜持(矜恃)」という言葉に初めて触れ、まさにその人の思いを的確に表した言葉だと感動した経験があります。●誇り」や「自信」、ましてや「プライド」などの言葉では表しきれない、その人の人柄、気質すら感じることができたからです。●小学生時に出会った「常套句」を始めとして、「寡聞」「肺腑の言」「仄聞」「灘声」などの「ことば」との出会いは、私の耳目を開き、「ことば」の包含性という気づきを与えてくれました。●正直、高校生までは文法は好きではありませんでしたが、大学で「は」と「が」の違いについて学ぶことをきっかけに、大好きではありませんが、文法への興味が湧きました。●やはり「ことば」は生きています。●既述したことですが、見る」という尊敬語において、「ご覧になる」なのか、「叡覧」なのか、その使い分けこそがその人の「思い」をより的確に表現する術のひとつなのです。●雨が降りそうだ」と「雨が降るようだ」を明確な意思を持って使い分けることは大切なのです。●自分の思いであるを相手に伝えたいとき、と表現したつもりでも、相手がA’と受け取ったとしたら、それは相手がA’と受け取るような表現しかできなかった自分に力がなかったのかもしれません。●またまた、相手がという「思い」を表現していたのに、こちら側にそれを読み取る力がなくB’としか理解できかったらとても残念なことです。●文法にしろ、語彙にしろ、日本語をより深く掴まえるための努力をしていかなければと思うところです。そしてそういう行為が語学ということなのだろうと考えています。
●文脈によって「明白な」「明確な」「明晰な」「鮮明な」を的確に選択しながら会話ができる、表現できる力を身につけるためにも、事例をふんだんに交えながら、日本語の奥深さ、表現の豊さが説かれている、本著を手に取ってみてはいかがでしょうか。

社会に貢献する自立した人間

◆社会に貢献する自立した人間◆
 本校の子供たちには、「1年後の自分像を描き、どんな人に成長していたいか、何が出来るようになっていたいか、具体的な目標を立てて、粘り強く努力をしてほしい。」また「自立した人、つまり自己実現力を身に付けるために、自分がやりたいことを自分で見つけ、自らどんどんやっていってほしい。」と繰り返し伝えているところですが、その根底には、「社会に貢献する自立した人間」へと成長してほしいという、強い願いがあります。それは、本校の校訓である「自立共生にもつながる考え方です。
 当たり前ですが、何かに挑戦することがなければ失敗をすることすらありません。先ずはチャレンジすること、その意思、そして意志を持つことが大切です。たとえ失敗し挫折感を味わったとしても、自分が目指し頑張ってきた結果なら、その体験はその後必ず生きると考えるからです。そしてその体験を経験へと昇華させ、自分の人生に生かしていくべきなのです。
 社会に貢献し、自立した存在になるためには、自分の考えを持ち正しく表現すること多様な知識を習得しそれらを活用して教養を深めることが肝要です。子供たちにはうまくやるより、試行錯誤を重ねながら得られた結果を受け止めて改善策を探っていける人となってほしいと願っています。
 創生祭体育祭などの行事は、学年を超えて生徒が企画・運営する一大イベント。予期しない変化に対応する柔軟性を身に付けるとともに、他の人の意見を理解して協働できるようにもなる格好の機会です。
 昨年度の子供たちの様子を見ていると、コロナ禍における新しい様式での学校教育活動が求められ、様々な制約や制限が余儀なくされる中、実施できそうな種目やルール、内容を教師の支援を受けながらも生徒自らが考え、実践していました。また体育祭の花形種目であり、本校の伝統となりつつある「南中ソーラン」においても、その練習の時間、内容を生徒自ら(生徒会役員や3年生が中心となり)が発案し、全校性が一体となって実践している姿に感動を覚えました。ひとつのものを成し遂げようと、子供たち知恵を絞っている姿を見ているとリーダーは育てるものではなく、自然と生まれるのが正しいんだなと感じます。(教師はその環境を整えること、必要に応じて「意図的なしかけ」と必要最小限の支援、言い換えれば「導き」は必要なのですが)。得意なことがそれぞれ違う者同士が集まっているから、先頭に立つ人、それを支える人が場面によってコロコロ変わる。人と交わるなかで、どんどん失敗したっていい。これこそが学校教育の醍醐味です。そう意味で、「目指す生徒像」に「自立」というキーワードを掲げ取り組んできた、昨年度の教育活動は一歩前進したと考えています。
 本年度はさらに前進できるよう、新たな「しかけ」を試みますそれは、「全校縄跳び大会」や「全校リレー大会」、「全校写生大会」(これは参考例で、実施する種目は子供たちに考えてもらいます。斬新なアイディアが挙がることを期待しているところです。)など、子供たちが企画、運営するイベントを教育活動に位置づけ、実施していこうと考えています。そのことで、うまくいって感動し、自信へつなげ、時に失敗し、挫折感を味わいながらもその体験(経験)を次に生かす、また友達と意見が対立し、腹が立ったり、納得がいかなかったりしながら、落としどころを見つけていくなど、調整力を養っていく。その過程で子供たちが自己の得意分野を生かし、協力し合って、新たな自己を発見していく。そんな活力ある学校を目指しています。
 子供たちが卒業するときに「この学校でよかった」と思えるようにするためには、本校に集う子供たち自身の力が大切です。それをしっかり支える教職員、そして保護者や地域の皆様の協力が必要なのです。目の前の小さな目標達成に向けて努力を積み重ねていく先(未来)には、結果として、志望校への合格があり、最終的に求める「社会に貢献する自立した人間」への道があるのですから

ちょっと一息(お勧めの1冊)

◆吉本 ばなな『TUGUMI(つぐみ)』◆

●本日紹介するのは、吉本ばななさんが著した『TUGUMI(つぐみ)』です。●『キッチン』に続く第2作目で、山本周五郎賞を受賞しています。●作品は、12の連作短編集となっていますが、どこから読んでも楽しめる1冊ともなっています。●主人公は著書のタイトルともなっている「つぐみ」。●その「つぐみ」は病弱で長くは生きられないと宣告されています。●その「つぐみ」の姿を従姉妹の「まりあ」の視点で描いたエッセイ的要素を含ませた作品です。●実は「まりあ」にも、ちょっと訳ありの複雑な家庭事情があるのですが、その悲しさも辛さも垣間見せていません。●この作品の魅力には、このような構成の妙によるところも大きいのです。●「まりあ」は「つぐみ」が表出した言葉を語ります。行動を語ります彼女が目にした「つぐみ」の姿として物語が展開するのです。●また「まりあ」は「つぐみ」の心を、考えを、そしてその思いも語るのですが、それはあくまで「まりあ」を通した「つぐみ」の虚像です。●だから、時としてその「つぐみ」像は見事に裏切られます。●またそれは同時に、私たち読者が「つぐみ」に裏切られ、驚かされることにもなるのです。●では、吉本ばななさんの『TUGUMI(つぐみ)』を少しだけ紹介します。
●「つぐみ」の実家である旅館に「まりあ」が身を寄せます。ある一夏のことです。●「つぐみ」は容姿端麗ですが病弱で、小さい頃から甘やかされて育ちます。●「つぐみ」は「食うものが本当になくなった時、あたしは平気でポチを殺して食えるような奴になりたい。」と語る、ちょっと言葉が悪く、粗野で傍若無人な女の子です。●でも、強烈すぎる強さは、儚くて危ういものです
●我儘で自由奔放で癇癪もちの「つぐみ」の物語。●弱い身体に余る程の強い気性で家族にも誤解されている「つぐみ」の物語。●「つぐみ」、「まりあ」、「陽子」、「恭一」4の人が織りなす、一夏の青春物語。●夏の海辺の街が、そしてそこを歩く4人の姿が、その情景が脳裏に浮かぶ物語。●「つぐみ」と「恭一」の淡く、儚い恋の物語。●「恭一」の飼っていた「権五郎」という犬の連れ去られ事件。●その事件を発端とした、「つぐみ」の復讐劇。●そしてのその復讐劇の頓挫「つぐみ」の生と死。●病弱な少女から少しだけ大人へと成長していく切なく透明な物語。●「つぐみ」の純粋さと捻くれた優しさに気づく「まりあ」の物語
●「つぐみ」は、どこまでも真っ直ぐで、それでいて儚く消えてしまいそうな女の子です。●まるで「生の時間」とは別の場所にいるようで、なんとも不思議な雰囲気をもつ「つぐみ」に、機会がありましたら触れてみてはいかがでしょうか。

八代亜紀さんの言葉

◆歌手の八代亜紀さん◆

●本日は、歌手の八代亜紀さんのインタビュー記事から「ありがとう」の言葉について、八代亜紀さんの言葉や内容のさわりを紹介いたします。
●昨年、歌手デビュー50周年を迎えた八代亜紀さんは、1971年に歌手デビューし、「なみだ恋」の大ヒットを皮切りに、1980年「雨の慕情」で日本レコード大賞を受賞するなど、数多くのヒット曲を世に出しています。また絵を描く才にも長けておりフランスの「ル・サロン」で5年連続入選を果たし永久会員ともなっています。
●八代亜紀さんは「ありがとう」と言う言葉は、本当に良い言葉で、この言葉に元気をもらって、50年間をやってきました。「ありがとう」と聞くと、言った方も言われた方も元気になるし、「よし、またがんばろう」という気持ちになるので、たくさんの「ありがとう」を言葉にするようにしているんですと語っています。●下積み生活の2年間は、日々思いトランクを引きずり手にマメを作りながら、知らない街から知らない街へと移動しては、歌を歌い、そしてレコードを1枚、1枚、手売りしていたそうです。●ある時、次の街へ移動するため、がらがらの始発電車に乗って、トランクを前に抱え、両脇に大きなバックを2つ置いて座りましたが、疲れのためか、泥のように眠ってしまったそうです。●目が覚めたときには朝の通勤ラッシュの時間帯で、電車は超満員の寿司酢目状態。そんな中、八代さんは何人分もの席を占領してしまっていたのです。●しかし、誰からも「どけ」などと、きつい言葉を浴びせられることはありませんでした。●それから数年後、「あの時、トランクを抱えて寝ていたのは、八代さんではなかったですか?疲れているのだから寝かせてあげようと、みんなで言い合っていたんですよ。」と言う、手紙をいただいたそうです。●心がほっこりと温まる逸話です。●八代さんは、下積み生活のような苦しい日々の中であっても、良いことがひとつくらいはあるものです。十のうち九つ嫌なことがあっても、ひとつ良いことがあれば、そちらに「ありがとう」と言いたいと述べています。●また、「なみだ恋」の大ヒットでスターへの階段を上り始めた八代さんは、「百万枚のヒットなんて、親戚がどれだけ買っても無理。見ず知らずの方、一人一人が買ってくださったのだから、感謝するんだよ。」と言う父親の言葉は、本当にその通りだと感じたそうです。●ホームレスの方に毎日、ご飯とお風呂を用意した両親。ご近所さんにお裾分けをよくしていた両親。そういう両親の姿から、物事の良い面に目を向ける、感謝しようという思いが強くなったとも八代さんは語っています。
●八代亜紀さんのインタビュー記事の内容から、「ありがとう」と言う言葉を素直に、そして心から発することのできる人とは、苦楽ある人生を前向きに捉えることができる人であり、物事の本質(深層)に目を向け、「感謝」の心を持つことができる人なのだと、改めて感じたところです。

令和4年度のスタートに当たって

◆令和4年度のスタートに当たって◆

 本校は「自立共生」を校訓とし、多くの皆様のご支援、ご協力により、本校ならではの良き雰囲気校風ができています。改めて、保護者の皆様、地域の皆様、そして関係諸機関の皆様に感謝申し上げます。

 本年度の本校における「目指す生徒像」「自分でやりたいことを自分で見つけ、自らどんどんやっていく自己実現力を備えた生徒」です。
 始業式、入学式で生徒には、この1年間で、自分ができるようになりたいこと、成果として残したいことなどを考え、1年後の成長した自分の姿である「自分像」をしっかりと思い描いてほしいと伝えました。
 生徒一人一人が改めて自己見つめ直し、自分にとってふさわしい「自分像」を思い描いてほしいと強く願っています。そのことは、自分がやりたいことを、自分で見つけ、自らどんどんやっていくと言う、自分の人生を自らの力で切り開くことのできる「自己実現力」を備えた生き方の礎となるとともに、様々な場面で、的確に考え、判断することのできる「主体性」のある生き方、「自立した人」へと、つながっていくはずです。
 そして生徒たちには、1年後の「自分像」が描けたら、それを実現させるために、少し頑張ればできそうな小さな目標、それもより具体的な目標(いつ、どこで、何を、どれくらい)を設定することで、「自分像」を達成させるため計画を自ら立てる必要があることも伝えています。
 具体的な目標を持つことは、少しくらい大変でも、もしサボりたいと思う気持ちがわき上がっても、やらなければならないことがはっきりしているので頑張れるものですし、「自分が決めたこと」で、誰かに「やらされている」のではないので、自らどんどんやっていくエネルギーにもなるものです。
 より具体的な目標を立てることで、達成状況について、何ができて、何ができていないのか、さらに努力しなければならないことは何かを、その都度、その都度、適切に振り返りながら、努力を継続することを期待しています。時には失敗もあるかもしれません。でもあきらめず、目標に向かって努力を続けてほしいのです。
 令和4年度のスタートに当たり、「自分像」をしっかり思い描くことで、生徒一人一人が頑張りたいと思っていることを明確にして、具体的な目標を立て、うまくいかないことがあってもいいから、粘り強く、継続して取り組んでいく、そんな1年間となることを期待しています。
      

教職員には、「目指す生徒像」の実現に向けて、
 1「自律性自分像達成に向けての自主的な取組への支援とメタ認知への誘い)」
 2「有能性やればできる、自己能力の目覚めという新たな気付きへの導きと支援)」
 3「関連性努力の過程、成果の承認と第三者との関係性構築)」
の3つの言葉をキーワードとして「主体性」を醸成できるように声をかけています。
 そのためには、教師のいを明確にし、その思いを継続して信し、時に触れながら自らの取組、生徒の姿をり返り評価すること、そして適宜に助言と支、見守りを行うことで、生徒一人一人が自己の「自分像」を実現できるよう取り組んでいくことを確認しました。

                     那須烏山市立南那須中学校長 藤田 繁

創作四字熟語2

◆創作四字熟語2(住友生命保険)◆

今年の世相を表現する「創作四字熟語」の第2弾です。今回は、入選作品をいくつか紹介します。

世望接種(よぼうせっしゅ)【予防接種】
世界中の人たちが望んだワクチンが実用化され、接種がようやく可能になりました。紆余曲折はありましたが、日本でも12歳以上の希望者は2回、接種することができました。

延急事態(えんきゅうじたい)【緊急事態】
今年も感染症予防対策による緊急事態宣言が繰り返し出されました。度重なる延長に、またかとあきらめの境地に陥った方も多かったのでは?

救急搬捜(きゅうきゅうはんそう)【救急搬送】
コロナで病床が逼迫し、救急車が患者の搬送先を捜すのに困難を極めるという、今まででは想像もできなかった事態が現実に起こりました。

普宙旅行(ふちゅうりょこう)【宇宙旅行】
前澤友作さんが宇宙から無事帰還されました。金持ちだけでなく普通の人も宇宙へいく時代は来るのでしょうか。数年後には600万くらいで行けるという話もあるのですが。

価格携争(かかくけいそう)【価格競争】
管前総理による肝いり事業。携帯電話各社が競って新プランを出し、値下げを実施しました。若者や単身者には嬉しい値下げプランでしたが、ファミー割などを活用している方には恩恵があまりなかったようですが…。

結源恥婚(ゆいげんじつこん)【有言実行】
新垣結衣さんと星野源さんの結婚に、世の中は「逃げ恥婚」だと騒ぎました。

雅翔連婚(がっしょうれんこん)【合従連衡】
嵐の相葉雅紀さんと櫻井翔さんが揃って結婚を発表しました。

三冠四願(さんかんしがん)【三寒四温】
棋士の藤井聡太さんの勢いが止まりません。タイトル三冠達成です。次のタイトル戦も勝利し四冠達成を願うファンを多いのでは。

全認二刀(ぜんにんにとう)【前人未踏】
大リーガー(エンジェルス)大谷翔平選手は投手と打者の二刀流で大活躍。日本人としてはイチロー選手に次ぐ、MVPを獲得しました。誰もが認める二刀流の活躍でした。

英樹颯爽(えいきさっそう)【英姿颯爽】
ゴルフの松山英樹選手がマスターズ・トーナメントで初優勝しました。

銀籠感謝(ぎんろうかんしゃ)【勤労感謝】
オリンピックでバスケットボール女子が、史上初の銀メダルを獲得しました。

国枝無双(こくしむそう)【国士無双】
パラリンピックで車いすテニスの国枝慎吾選手が、実力を発揮し、金メダリストになりました。無双の強さです。

創作四字熟語

◆創作四字熟語(住友生命保険)◆

住友生命保険が、今年の世相を表現する「創作四字熟語」を発表しました。本日はその優秀作品を紹介します。「創作四字熟語」は、今年の世相を4文字で表現する住友生命保険の恒例行事となっています。皆さんも「創作四字熟語」に触れながら、今年1年の世相を振り返ってみてはいかがでしょうか。

七菌八起(ななころなやおき)【七転八起】
新型コロナウィルス感染症が収まったかと思うと再び拡大するという状況でした。「リバウンドがあってもコロナに負けずに起き上がろう」という思いが込められていますね。
大学新試(だいがくニューし)【大学入試】
高校では「情報」という新たな科目が来年度からスタートし、いずれ入試科目に加えられる予定だとか。今後も大学入学共通テストは変わっていくようですが、とりあえず新しい大学入学共通テストが始まりました
海遷山遷(うみせんやません)【海千山千】
オリンピック、パラリンピックの開催により、今年も海の日、山の日などの祝日が移されました。カレンダー制作時にその変更が間に合わず、祝日を勘違いしていた人が多数いたとかいないとか。
二者卓逸(にしゃたくいつ)【二者択一】
難敵である中国選手を撃破しての卓球混合ダブルス優勝。水谷選手と伊藤選手は頭抜けた「二者卓逸」でした。
引退鵬道(いんたいほうどう)【引退報道】
長きにわたり横綱の地位を守り、数々の記録を残すとともに、一人横綱として角界を牽引してきた白鵬関が引退しました
気象価値(きしょうかち)【希少価値】
気象学者で初めてノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎先生。真壁先生の研究に「気象価値」ありです。
郵休二日(ゆうきゅうふつか)【週休二日】
土曜日の普通郵便配達がなくなり週休2日になりました。
双子総愛(そうしそうあい)【相思相愛】
6月に上野動物園で双子のジャイアントパンダ、雄のシャオシャオ(暁暁)と雌のレイレイ(蕾蕾)が誕生しました。現在体重が10キロを超え、動きに切れが出てきたそうです。二人でじゃれ合う姿、母親とのやりとり、みんなから愛されていますね。
中傷必罰(ちゅうしょうひつばつ)【信賞必罰】
ネット上の悪質な誹謗中傷により、尊い命を自ら絶ってしまったという悲しいニュースも流れました。その対処のために、法令の改正や厳罰化が検討されました。
幼老介護(ようろうかいご)【老老介護】
かつて、「老老介護」という言葉が生まれ、現在にも続く社会問題ですが、新たに「ヤングケアラー」と呼ばれる、介護などを日常的に行っている、子どもの問題が表面化しました。

守破離(しゅはり)

◆守破離(しゅはり)
●本日は、武道や芸能など世界で良く使われる「守破離」という言葉を紹介します。●「守破離」の【守】は、武道等における最初の段階の心構えです。指導者(師)からの話や助言対しては真摯な態度で耳を傾け、そして指導者の行動を見習ってそれを真似し、指導者の価値観を自分のものにしていくことです。すべてを習得できたと感じるまでは、指導者の指導の通りの行動することを意味しています。●「守破離」の【破】は、師と仰ぐ指導のすべてを習得できたと感じた後の次の段階で、指導者から学んだことから一歩踏み出して、自ら積極的にその助言や指導を破る行為のことです。師の教えという殻を破り、自分独自に工夫して、指導者の話になかった方法などを試してみる行為を意味しています。●「守破離」の【離】は、武道等における最終の段階の行為です。師(指導者)からの教えを基本としつつも、そのもとから自ら離れる決意とたゆまぬ努力により、自分自身で学んだ内容をさらに発展させることです。●つまり、先ずは憧れ(尊敬)の人の一挙手一投足を真似して、次に自分の独創性をそこに織り混ぜてみる、そして最後に自分独自の新しいものをつくっていくということになります●これは、別に武道や芸能の世界だけの話ではなく、どんな世界でも通用し、応用できる考え方だと感じています。
●私はかつて、明治大学の野球部で活躍したある知人から、次のような話をされたことがあります。●「俺は、バッターボックスに入るときには、篠塚(巨人軍で活躍した篠塚利夫選手)の真似をするんだ、ベンチからネクストバッターサークル、そしてバッターボックスまで、篠塚の動きをすべて真似をする。歩数も同じ、第一歩は左足からだ。素振りの回数も、その仕草も同じだ。」●彼が明治野球部の中心選手として活躍できた原動力が、実はここにあったのだと、「守破離」という言葉を思い描きながら感じたことを記憶しています。●またその当時、若者を中心に一世風靡したミュージシャン布袋寅泰(元BOΦWY)さんは、「好きな人の音楽をいろいろ取り入れて、自分の音楽を作っているわけだから、オレの音楽が一番好きなのはあたりまえだ」と語っていました。●まさに「守破離」を体現しきった人の言葉です。●声優としてルパン三世の声をやっていた栗田貫一さんも、最初はただの物真似でしたが、最後には本物となったと感じているのは、私だけではないと思います。●物真似も突き抜けると本物になりますから。
私たちが何かを体得したい、あるいは夢や希望を叶えたいと考えたとき、この「守破離」という考え方も一つのヒントとなるのではないでしょうか。●女優になりたいと思ったら、とにかく憧れの女優の真似をする。それも徹底的にする。「守破離」の【守】です。●そして1年くらい真似をし続けると、だんだんとその意味、内容が理解できてくる。他の気になる女優の仕草にも目を向けてみる。そこで新たな情報を取り入れながら自分の独創性を織り交ぜてみる。「守破離」の【破】です。●そして最後に自分の独自性を前面に出していく。「守破離」の【離】です。
●「武道の稽古は礼に始まり礼に終わる」と礼の精神が強調されているように、「武道」には、その技や動作の奥に礼や和の精神があります。この「武道の精神」を踏まえつつ、「守破離」という考え方を日常生活にも生かす、応用してみてはいかがでしょうか。

「礼儀(作法)」、そして「マナー」と「しきたり」

◆「礼儀(作法)」、そして「マナー」と「しきたり」
●時代とともに社会情勢は変化し、新たな「もの」が生み出され、求めるもの、大切だと感じるもの、つまり私たちの価値観は変わってきています。それも多様化してきています。●しかしながら、人と人との関係性や付き合いは、多少の変化はあっても、その根幹は今も昔も大きく変わってはいません。●過日、日本における「礼儀」について、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」であると紹介いたしました。●最近、「礼儀」と「マナー」と「しきたり」の違いについて書かれた本を読む機会がありましたので、本日は、その違いに簡単に触れながら新渡戸稲造さんの言葉を紹介しながら、礼儀における「心」に「マナー」という心遣いがどう関わっているのか、私が感じたことを紹介します。
●「礼儀」とは立ち振る舞いを含めた行動様式のことで、訓練によって身に付けるものだそうです。このことから「礼儀」には「作法」という言葉が当てはまります。●「しきたり」とは、季節感や節目を大事にする心「お正月」や「桃の節句」、「還暦の祝い」などの祝いをする行為)のことで、そういった年中行事は日々の暮らしを豊か(心)にするそうです。したがって「しきたり」には「彩り」という言葉が似合うのです。●「マナー」とは、互いが気持ちの良い空間を作るための行為で、相手を慮(おもんぱか)る気持ちと書かれていました。「マナー」には「利他の精神」という言葉がぴったりです。●もともと、「礼儀」と「マナー」と「しきたり」には、このような違いがあったようですが、日本のおける「礼儀(作法)」が、現在に通じる「心」、つまり「マナー」の意味合いを含めた「形」として変遷していった経緯については、過日、紹介したとおりです。●新渡戸稲造さんは、その著書『武士道』で、自分を大切にするように家族や友達、社会の仲間を大切に思う、思いやりの心として「礼儀の最高の姿は愛(マナー)である」という意味の言葉を述べています。●そして、そのことを「マナーは愛」という言葉で端的に表現、「真の礼儀とは、相手に対する思いやりの心、それが他に現れたもの」であるという趣旨のことを述べています。●過日、紹介した、小笠原流礼法・宗家の小笠原敬承斎さんのエピソード(葬式)にも通じます。
●改めて「礼儀(作法)」を考えたとき、先ず基本となることは、相手が嫌だと思うことを相手の気持ちになって考え、その「心(マナー)」を「形」にすること。●改まった儀式では、式の荘厳さ、厳粛さを現す「型」としての「心(マナー)」があること。●初対面の人の場合は、相手がどういう考えを持っているのかが分からないので、先人たちが今に伝えてきた「(礼儀)作法」に則ることで、相手が不愉快な思いをしないための「形」としての「心(マナー)」があること。●その「作法」を知ることは、TPO(時、場所、目的など)に応じた、自分の所作や言葉、服装などの規準を持つことになり、相手を気遣う余裕が生まれること
●「礼儀作法」という、先人たちが培ってきた生活の知恵、規準を身に付けることは、時代が変わっても人間同士がよくあるために大切なことだと改めて感じます。●なぜなら、「礼儀(作法)」とは、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」なのですから。

瀬戸内寂聴さんの言葉

◆瀬戸内寂聴さんの言葉

●昨日の報道で、瀬戸内寂聴さんの訃報を知りました。●瀬戸内寂聴さんの豊かな人生経験を土台にした、ユーモアと含蓄含む法話を拝聴することができなくなったという残念な思い同時に、白寿の大往生であったなと感じました。●瀬戸内寂聴さんは、若くして結婚し長女を出産するも夫の知人への恋心から出奔することを始め恋多き人生を歩まれたこと、●作家として女流文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞を受賞する活躍をしたこと、●51歳の時に中尊寺で得度し、法話を出家者の義務と考え、京都・嵯峨野に結んだ寂庵で法話の会を開催していたこと。その法話は、日本ばかりか海外からも聴聞客が多く訪れていたことなどをご存知の皆様を多いだろうと思います。●本日は、瀬戸内寂聴さんへの哀悼を込め、代表的な言葉をいくつかご紹介します。

◆怖がらないでね、人を愛した方がいいですよ。
 やっぱり人は人を愛するために生まれてきたような気がします。だからあんまり選り好みしないで、愛した方がいいです。身を守って誰も愛さないでね、怪我もない代わりに、死んで泣くほどの人も誰もいなかったなんて、そんな一生も寂しいですよね。素敵な人だと思って愛したら間違っていて、つまらない人だったってこともあります。その時はもうさっさと別れたらいいんです(笑)。

◆言いたいことを言いなさい。
 嫁にも姑にも亭主にも。言いたいことを言った方が胸がすっとします。穴掘ってでも言った方がいい(笑)。それが健康法の一つです。

◆“和顔施(わがんせ)”といって、笑顔もお布施になるんです。
 物をあげる“物施”や、人に親切にする“心施”というお布施もありますが、なかなかできませんね。でも和顔施ぐらいはできるわよ。人に会ったらにっこりすればいいんですからね。

◆出会いというもの、縁というものはね、生きてる時に大切にしなきゃだめですよ。
 明日はあなたが死んでるかもしれない、相手が死ぬかもしれない。だから、今日好きだと思ったら、今日言ってくださいね。

◆もう済んだことは、忘れましょう。
 私たちは「忘却」という能力を生まれた時から与えられているんですね。日にちが経てば、どんな嫌なことも辛いことも自然に薄らぎ、忘れることができます。だから人間は生きていかれるんですよ。

◆何か物事を始める時は、「これは必ず成功する」というプラスイメージを持ってください。
 絶対に幸せになるぞっていう夢を描けば、本当にそうなるのよ。私が初めて歌舞伎の脚本を書いた時ね、もし失敗してしまったら、せっかく今まで80年もかけて築いてきたものがすべて崩れますからね、とても怖いことなんだけど、そうは考えないの。必ずできると思ってね、歌舞伎座の三階席まで満員のお客様が、ワーって手を叩いてるところをイメージするんですよ。そうしたらその通りになったの。

◆笑顔を忘れないでくださいね。
 憂うつな悲しそうな顔をしてると、悲しいことが寄ってきます。いつも朗らかに明るくしていれば、いいことが寄ってくるんですよ。生きていれば、悲しいことも苦しいことも、腹の立つことも起こります。その度に姿勢を悪くしてしまったら、悲しいことや苦しいことがもっともっと重くなるんです。ですから、「負けるものか」と上を向いて、気持ちを前向きにしていればね、自然とまたいいことが起こるんです。

◆自分の身の丈にあった望みをいだくことですね。そうすれば欲求不満にならない。
 私たちはそれを忘れて、到底自分の手に入らないものを欲しがるんですね。小さな欲望でも満足することがあれば幸せなんですから、そのことに感謝してください。

◆人間は、幸せになるためにこの世に送り出されてきたのだと思います。そして幸せとは自分だけが満ち足りることではなくて、自分以外の誰かを幸せにすることだと考えてください。
 自分自身の可能性をできるだけ大きく切り開いて生きること、これもひとつの幸せです。しかし、あなたがこの世に生きて送り出されたのは、誰かを幸せにするためなんですよ。自分の命は誰かの役に立つためにあるのだと考えれば、この世はむなしいという気持ちもなくなるでしょう。

◆やっぱり自分が楽しくないと、生きててもつまらないですよ。だから何でもいいから、自分のために喜びを見つけなさい。そうすると生きることが楽しくなりますよ。
 苦しい苦しい、辛い辛いばかりじゃあ、生きがいがないですからね。喜びを見つけてくださいね。内緒の喜びの方が楽しいですね。楽しくないとつまらないじゃないの。もうどうせ死ぬんですからね、あなたたちも死ぬのよ、やがてね(笑)。だから生きてる間は全力を尽くして生きましょう。

ちょっと一息(お勧めのミステリー)

◆ちょっと一息(お勧めのミステリー)

著書名:『オリンピックの身代金』 作者名:奥田英朗


●本日紹介するのは、奥田英朗さんが著した『オリンピックの身代金』です。●爆弾魔と呼ばれた草加次郞がモデルとなっているミステリー小説です。●2段組で、読み応えはありますが、事件当日の緊張、刑事部のチーム感、刑事部と公安の対立、そして島崎国男(主人公:犯人)という哀愁ある人物像への共感といった、読みどころが満載です。●また高度経済成長時代へと向かう東京の姿、初めてトーストの朝食を食べる場面など、時代のディテールもふんだんに差し込まれた、骨太な社会派ミステリー小説です。●本書と併せて、「吉展ちゃん誘拐事件」をモデルとした『罪の轍』も是非おすすめです。
●『オリンピックの身代金』の大筋は、1964年(昭和39年)、オリンピックを成功させることで、戦後日本における復興の姿を世界に是が非でも示そうとする国家と、そのオリンピックの開催を阻もうとする若きテロリスト(島崎国男:東北地方出身)との攻防戦が、時間軸を行きつ戻りつしながら56章(日付け)によって描かれています。●「いったいオリンピックの開催が決まってから、東京でどれだけの人夫が死んだのか。ビルの建設現場で、橋や道路の工事で、次々と犠牲者を出していった。新幹線の工事を入れれば数百人に上がるだろう。それは東京を近代都市として取り繕うための、地方が差し出した生贄だ。」と島崎国男は憤ります。●戦後日本の繁栄、特に都会のめまぐるしい発展は、地方から出てきた労働者の支えに他なりません。●だからこそ、島崎国男は、「我々は永遠に奪われるだけの人生を過ごすわけにはいかない。搾取するばかりの資本側と、安い対価と引き換えに労働力を差し出すしかない声なき人々という関係を打破するのだ。」という思いに至るのです。そんな敵意がやがて、東京オリンピック阻止へと集約されていくという物語です。●犯人(島崎国男)が提示されているので謎解きの要素はありません。しかしそれでも最後まで読み手の心を捕らえて離さないのは、島崎国男という男の背景や島崎が自分と関わる人物に影響を受ける心理描写が丹念に描き込まれることで、島崎国男がなぜ犯罪に向かい、どんな手法で事を進めようとしたのか、そのミステリアスな動機一点に内容が凝縮されているからです。●そう意味での異質なミステリー小説です。
●この小説の魅力は他にもあります。昭和39年当時の東京が実によく活写されているのです。●高くそびえ立つ東京タワー、ぐるりと張り巡らされた首都高速道路、オリンピックに照準を合わせて進められた代々木体育館武道館そして東海道新幹線の完成、旧財閥の解体とそれに伴う公団住宅の建設ラッシュなど、正に高度成長時代の到来を告げています。●銀座を闊歩するみゆき族、ラジオから流れてくるビートルズのロック・サウンド、新しい時代への幕開けに満ち溢れています。●しかしその一方で、ヒロポンを打つしかない労働者の過酷な日々、朝鮮人の裏社会、東京湾岸地区(品川や大森)埠頭の光景、漁業の衰退など、新しいものに向かって闇雲に走り続ける人、その駒にされる人、流れに取り残される人、生き延びる人、死んで行く人、忘れられていく人。●戦後復興五輪開催前の当時の政治状況や大衆の空気感も丹念に描写され、当時の東京風土を知る、一種の歴史小説としても楽しめるのです。
●東京オリンピック開会前の3ヶ月ほどの期間を描いた本作品。東京で起こる隠された攻防戦が、スピード感あふれる緊迫の中で展開されていきます。そして読後感として未来への希望という心地良さを醸成できる秀逸作品ですので機会がありましたら是非、一読してみてはいかがでしょう。

ちょっと一息(お勧めのミステリー)

◆ちょっと一息(お勧めのミステリー)
著書名:『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』『その裁きは死』『ヨルガオ殺人事件』
作者名:アンソニー・ホロヴィッツ

●本日紹介するのは、イギリスの作家であり脚本家でもあるアンソニー・ホロヴィッツが著したミステリー小説です。●ホロヴィッツは、「アレックス・ライダー」シリーズや、コナン・ドイル財団公認のシャーロック・ホームズ・パスティーシュ『絹の家』『モリアーティ』を執筆するなど、多数の著書がある一方、人気テレビドラマ「刑事フォイル」など脚本家として数多くの作品を手がけています。●アガサ・クリスティへのオマージュ作『カササギ殺人事件』では『このミステリーがすごい!』『本屋大賞』の1位に選ばれるなど、史上初の7冠を達成しました。●また〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズ『メインテーマは殺人』『その裁きは死』でも、年末ミステリランキングを完全制覇しています。●そしてこの度、最新作として『ヨルガオ殺人事件』が発刊されました。●翻訳作品は、その訳者の力量に作品の善し悪しが現れてしまうものですが、山田蘭さんの訳も素晴らしいのです
江戸川乱歩横溝正史など古典に分類される作品、現在活躍中の東野圭吾さん(ちなみに、私は『幻夜』『白昼行』が特にお薦め)なども面白いミステリー作品を著していますが、ミステリー小説をあまり読んでいない私が、今一番お薦めするミステリー作家は、このアンソニー・ホロヴィッツです。●ミステリー小説ですので、そのさわりをほんの少しだけ、紹介いたします。

<1>『カササギ殺人事件(上・下)』(山田蘭訳、創元推理文庫)
 葬儀の場面から始まる。古い英国の村で二つの殺人事件が起きる。ここで登場するのは名探偵アティカス・ピュント。しかし探偵アティカス・ピュントの物語(探偵が事件を解決する)がいつしか、そのアティカス・ピュントを生み出した作者アラン・コーウィンの物語へ。事件(アティカス・ピュントが手がけていた)の結末部分が消失したまま、その作者アラン・コーウィンが死んでしまう。その死の真相を追いかける編集者スーザン。アティカス・ピュント事件の結末部分を探し出すためには、知るためには、作者アラン・コーウィンの心理を探る必要がある。そしてその結末部分が解明されたとき、実はアティカス・ピュントの物語が鍵になっていた。つまり、入れ子構造の作品名探偵ピュントの事件とスーザンの事件の両方の謎解きが楽しめる。見事なストーリーに驚嘆する作品。

<2>『メインテーマは殺人』(山田蘭訳、創元推理文庫)
 主人公は著者アンソニー・ホロヴィッツその人。ホロヴィッツは、元刑事のホーソーンから「俺(ホーソーン)が殺人事件を解決する姿をメインとした本を書かないか」と提案を受ける。そんな折、裕福な老婦人ダイアナ・クーパーが殺される。それも葬儀社で自分の葬儀の手配をした日に。そしてクーパー夫人の息子ダミアン・クーパー(有名俳優)も惨殺される。クーパー母子を殺害したのは誰か。謎が謎を呼ぶ。ホーソーンは一向に自分の推理を明らかにしない。焦れた著者ホロヴィッツは自分で解決しようとするのだが。騙される快感に酔いしれる作品

<3>『その裁きは死』(山田蘭訳、創元推理文庫)
 作者アンソニー・ホロヴィッツ本人が再び作品に登場する。『メインテーマは殺人』に続くホーソーン&ホロヴィッツ シリーズ第2弾作品。実直さが評判の弁護士が殺害される。裁判の相手方だった人気作家が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた謎の数字“182”。被害者が殺される直前に残した奇妙な言葉。弁護士が過去に起こした過ち。偶然な出来事も絡み合い、事件の真相は混迷を帯びる。用意周到にちりばめられた仕掛け(解明のヒント)を楽しめる作品

<4>『ヨルガオ殺人事件(上・下)』(山田蘭訳、創元推理文庫)
 『カササギ殺人事件』の続編。イングランドでホテルを経営しているトレハーン夫妻スーザン(元編集者)を訪ねてくる。ホテルでは8年前に殺人事件が起こっている。娘のセシリーアラン・コーウィンが著した『愚行の代償』を読む。そのことで8年前にホテルで起きた殺人事件の真犯人に気づく。そしてセシリーは犬の散歩途中に失踪してしまう。『愚行の代償』には、本編『ヨルガオ殺人事件』の真相、真犯人を指し示すヒントがここかしこに埋まっている。アラン・コーウィンは『愚行の代償』に、ホテルの人物をモデルとして登場させていたからだ。『カササギ殺人事件』に勝るとも劣らない構成の妙に尽きる作品。

礼儀における「心」と「形」

◆礼儀における「心」と「形」◆
●「礼儀」について書かれたいくつかの書籍を目にする機会がありました。●本日は、その内容を紹介します。
日本の礼儀作法の原点は武家社会で確立されたと言われています。●時の権力者が儀式を通して、礼儀作法を武士たちに教え、社会や人間関係を円滑に成り立たせようとしたことが始まりです。●食事の仕方や手紙の書き方、教養として身に付けておきたい事柄などの礼儀作法は、元々は公家文化の作法であり、それが武士が台頭し始めた時代、つまり室町時代に武士を中心に一般的に確立されたと考えられています。●また、その礼儀作法は時代を経るにつれ、完璧な「形」を求めていたものが、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」を大切にする考え方に変化していったようです。●そして江戸時代に儒教の影響を受け、現在に通じる礼儀(「心」)を現すための「形」の原型が形作られていくのです。●日本にこうした「心」を「形」にする作法があるように、西洋にはマナーがありますが、目指すところは同じであり、互いに心地よく過ごすためのものであることには変わりはありません。●ただ、日本の場合は、「相手を慮(おもんぱか)る」ことを優先するという自己抑制力が強く働くことに特徴があるようです。●だからこそ、日本人のコミュニケーションには、すべてを表現しないところに美しさを求めているのです。●それを「遠慮」という言葉に置き換えることはできますが、「遠慮」は決して我慢をすることを意味してはいません。●遠くを慮って表に現さないことで、相手に負担をかけず、最終的に相手の心地よさや自分の幸せ(心地よさ)につなげているのです。
●小笠原流礼法・宗家の小笠原敬承斎さんが、次のようなエピソードを語っていました。●先代から、お焼香の作法を習ったあるお弟子さんがいました。そのお弟子さんが「お葬式の時、先代からお焼香の作法を学んでいたおかげで恥をかきませんでした」という旨の話をしたそうです。●それを聞いた先代は、「作法とは、悲しい気持ちを持って遺族や周りの人に失礼のないように故人を悼む、ということを含めてのものです。自分がどう美しくできたかにポイントが置かれた心根は、礼法に反しています。」と、非常に厳しい言葉で諭したそうです。●礼儀とは、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」なのですから、まずは亡くなった方へ「心」を寄せる思いこそが大切であり、そこで相手の方々が不愉快な思いをしないための基準としての礼儀作法があることを端的に表した話だと感じました。
●本市では平成25年度から、学校教育を中心に「ABC/R」運動を展開しています。「R:立腰(正しい姿勢)」を中核として、「A:あいさつ」「B:時間前行動」「C:環境を整える」をスローガンに、明日を担う子供たちに社会の一員として豊かに生きるための基礎的資質を培うための運動です。●これらの運動においても、「自分のできる範囲で、同じ空間にいる人同士が互いに心地よく過ごそう」という「心」がベースとして展開されなければ、運動自体が形骸化してしまうのではないかと危惧しているところです。●周囲の大人から言われるからという「形」だけの「あいさつ」、「時間前行動」、「環境整備」から、その「心」を大切にした子供たちの姿を描きながら、日々の声かけを続けているところです。

津田寬治さんの言葉

◆俳優の津田寬治さん◆


●本日は、俳優の津田寬治さんインタビュー記事から、「人との出会い」についての津田寬治さんの言葉や内容のさわりを紹介いたします。
●津田寬治さんは、1933年代「ソナチネ」で映画デビューし、「HANAーBI」や「模倣犯」、「シン・ゴジラ」など、多くの映画に出演しています。また「花燃ゆ」、「西郷どん」などのテレビドラマや舞台でも活躍し、最近ではNHK大河ドラマ「青天を衝け」で武田耕雲斎役としての熱演も記憶に新しいところです。
●津田寬治さんは、「僕には、人生に影響を与えてくれた出会いがたくさんあります。そして人との出会いなくしては、今の自分はない」と語っています。●津田寬治さんは、小学生の時、集団行動が苦手で、どちらかというと学校では怒られることが多かったようです。そんな自分に当時の担任の先生が、「先生は津田の絵が一番好きだな。イキイキとした感じが伝わってくる」と、クラス全員の前で褒めてくれたことがあったそうです。●先生に褒められたのは生まれて初めてのことで、とても幸せな気分になったと述べています。そして、この経験がその後の自分を奮い立たせるモチベーションとなると共に、自分に自信が持てるようになった語っています。●津田さんにとって、この先生との出会いが自尊感情を高め、何事にも積極的に取り組む原動力となったのです。●また、「劇団東俳」の演技レッスンで、講師の先生に初めてやった芝居が褒められ、その後のレッスンに力が入ったことや、劇団の友人から「お前さあ、自分はすごいと思っているかも知れないけど、お前みたいな奴はどこにでもいるし、それをこれから知ることになるよ。そこで落ち込んでやめるか、でもがんばろうと思うかどうかは自分次第だからね。」と言われ、社会の厳しさを自覚し、自分の中で何かが覚醒したように感じたことなど人生には、自分を変えるような言葉との出会いがあった語っています。●そして、有名人や偉人のものでなくとも、仮に相手が深く考えずに発したひと言であっても、自分にとってちょうどよいタイミングにもたらされた言葉が覚醒のきっかけになるものだ語っています。●その後も津田寬治さんは、北野武さんとの出会いなど、人生を変えるほどの大切であり重要な出会いをたくさんします。●その中でも私が特に印象に残ったのは、今は亡き大杉漣さんとの出会いです。●北野武監督率いる「北野組」で二人は出会うのですが、大杉漣(俳優として大御所)さんの津田寬治(当時無名の俳優)さんへの思いに感動したからです。●大杉漣さんは、竹中直人監督に津田寬治さんを紹介します。●北野武監督との出会いもそうですが、この竹中直人監督との出会いが、津田寬治さんのその後の俳優としての飛躍へつながります。●大杉蓮さんは、当時まだ無名であった津田寬治さんに対しても同じ目線で接してくれたばかりではなく、この無名の俳優を積極的にアピールするために、自分の用事(約束)を反故にしてまでも、この若手俳優の今後の人生のために奔走したのです。●大杉漣さんが紡いでくれた縁により、今の「津田寬治」という俳優がいることに、人との出会いの大切さ、人生が広がっていく様を感じます。●そして人との出会いを大切にし、それを自分の人生の広がりに生かしてきた津田寬治さんの人柄の素晴らしさにも感動します
●津田寬治さんのインタビュー記事の内容から、人は何のために生まれてくるのだろうと考えた時、その答えの一つは、多くの人に出会うためなのだと考えます。人は他者から多くのことを学び、成長していけるのですから

二尊院の言葉

◆二尊院の言葉◆

●本日は、京都の嵯峨にある「小倉山 二尊院」の言葉を紹介します。●この言葉は、私が35歳の時、当時勤務していた学校長より、良いことが書かれているからといただいた言葉です。

人生五訓
 あせるな/おこるな/いばるな/くさるな/おこたるな

心の糧七ヵ條
 一 此の世の中で一番楽しく立派なことは生涯貫く仕事をもつことである
 一 此の世の中で一番さみしいことは自分のする仕事がないことである
 一 此の世の中で一番尊いことは人の為に奉仕して決して恩に着せないことである
 一 此の世の中で一番みにくいことは他人の生活をうらやむことである
 一 此の世の中で一番みじめなことは教養のないことである
 一 此の世の中で一番恥であり悲しいことはうそをつくことである
 一 此の世の中で一番素晴らしいことは常に感謝の念を忘れずに報恩の道を歩むことである

幸福の道
 家内仲よく ゆずりあい  / 先祖に感謝 親を大切に
 空気に感謝 社会に報恩  / 身体を大事に 仕事に熱心
 人には親切 我が身は努力 / よく働いて 施しをする
 不平不満や 愚痴を言わず / 人を恨まず 羨まず
 口をひかえて 腹立てず  / 親切正直 成功のもと
 気(きはながく) / 心(こころはまるく)
 腹(はらたてず) / 口(くちつつしめば)
 命(いのちながかれ)

●耳の痛いお言葉ばかりです。●今でも時々、この言葉を思い出しては、自己の言動を反省をしているところです。

ちょっと一息(お勧めの作者)

ちょっと一息(お勧めの作者)

◆村上春樹さんの世界◆
●本日は、村上春樹さんの小説について、書評的手法を用いた紹介を試みようと思います。●村上春樹さんの作品は「現実の世界」と「過去の世界」、「こちら側の世界」と「あちら側の世界」といった対立軸をベースとし、そこに「呪い」や「暴力」といった「悪」をテーマに織り交ぜて、登場人物の苦悩、厭世、勇気、成長などを描いた内容となっていると考えています。●例えば、『羊をめぐる冒険』は、「父」から「羊」の継承(裏社会の権力者として世の中を牛耳る者)の呪いをかけられた鼠(主人公の親友)の話ですが、自殺することで悪の継承を拒否するとともに、「死の世界」から「現実の世界」に残存する「悪」を抹殺するという小説です。つまり父の呪いを自らの死をもって打破しようとした鼠の苦悩が描かれています。●また『ノルウェイの森』では、「過去の世界」に引き寄せられた直子が、「現実世界」で生きることよりも自らの死を選択するという内容です。直子が「過去の世界」を求め続けなければならない悲しみ、哀愁が主人公の目を通して静謐に語られています。果たして直子が自己の抱えた苦しみを解放し、自殺をせずに「現実世界」で生き続けるためには、何が必要だったのでしょうか。●その「問い」に対するひとつの回答が『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のテーマではなかったのかと考えます。●その答えは「あちら側の世界」に「自分の世界」をつくることです。そして「過去の思い出」を大切にしながら生きていくことさえできれば、「現実の世界」でも生きていけたのではないでしょうか。●直子はそれができなかったのです。●しかし『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の主人公はそうすることで、「あちら側の世界」から「現実の世界」へ戻ることができたのではないかと考えます。●それでも疑問が残ります。●「あちら側の世界」に「自分の世界」をつくった人間は、「現実の世界」において本当の自分なのか、ということです。外見上は確かに生きてはいますが、本当の意味で「現実世界」に生きる意味、存在価値があるのかということです。●村上春樹さんは、『海辺のカフカ』で、その答えを示しています。●『海辺のカフカ』は、「あちら側の世界」に身の半分を置いた父に「(お前はいつか)父を殺し、母と姉と交わる」という「血の呪い」をかけられた15歳の少年(カフカ)の成長物語です。●カフカが、悪を継承することもなく、父を現実に殺すこともなく、いかに呪いを打破して「現実世界」で生きていけるのかを描いているのです。●『海辺のカフカ』には佐伯さんという50歳を超えた美しい女性が登場します。●彼女は、半身が「あちら側」へ行ってしまった人間です。●佐伯さん自身は「あちら側」で「過去」とともに生きており、「現実世界」の彼女は虚無感に覆われた残像のようなものです。●またナカタさんという初老の記憶を失った人物も登場します。●ナカタさんは「あちら側」に連れて行かれたしまった人物です。●ですから「現実の世界」では「空っぽ」の人物として描かれています。●「過去の世界」に生き「現実世界」に背を向ける佐伯さんや「あちら側の世界」にすべてを持っていかれ「空っぽ」のナカタさんがそれぞれ最後にとった行動にこそ、心身ともに「現実世界」に戻る(戻す)ための「答え」が暗示されていると感じました。●それは「現実の世界」から「あちら側の世界」へ導く様々な要因である「悪」、その連鎖を断ち切るための「救い(救う)」が必要であると言うことです。
●戦争、暴力という「悪」をテーマに取り上げた『ねじまき鳥クロニクル』では井戸が、宗教をテーマにとした『IQ84』では高速道路の階段が、●無がテーマの『騎士団長殺し』では、祠が「あちら側の世界」へと導いています。●「あちら側の世界」に居るミュウと行ってしまったすみれを描いた『スプートニックの恋人』●『羊をめぐる冒険』の続編である『ダンス・ダンス・ダンス』などなど、機会がありましたら、村上春樹さんの小説が語るテーマの連続性に触れてみてはいかがでしょうか。

ちょっと一息(お勧めの1冊)

◆ちょっと一息(お勧めの1冊)◆
著書名:『ソフィーの世界』 作者名:ヨースタイン ゴルデル


●本日は、ヨースタイン・ゴルデルが著した『ソフィーの世界』を紹介します。●本書はファンタジーとして、ミステリーとしても読むこのできる物語形式をとった哲学入門書です。●難しい哲学の内容を易しく、それも哲学の歴史について非常に分かりやすく整理されているため、哲学について、俯瞰的にそして体系的に学ぶことができる一冊となっています。●手紙を通じて行われる対話形式の軽快なテンポに合わせ、主人公のソフィーと共に考え、感じて歩んでいく時間は心地良く、学びの多い体験となるはずです。●哲学の講義はどれも興味深い謎に満ちているとともに、「人間の存在」について考える上で、素晴らしい構成となっています。●特に、登場人物の関係性が明らかになる中盤以降は、物語にぐいぐい引き込まれ、先を読み急ぎたくなること請け合いです。●本書は1991年に出版され、全世界で2600万部以上を売り上げたベストセラー作品です。発売から30年が経過しても全く古くささを感じさせません。●哲学という古から続く学問がテーマであること、物語としての魅力があることが、その理由だと思います。●600ページを超える長編作品ですが、普段、あまり考えることのない疑問について考えることは、思考の幅を広げることにつながるはずです。●ぜひソフィーと共に生徒になって、哲学の問題に取り組んでみてはいかがでしょうか。●では、簡単にあらすじを紹介します。
●ある日、ソフィー(14歳の少女)のもとへ一通の手紙が舞い込みます。消印も差出人の名もないその手紙にはたった一言『あなたはだれ?』と書かれています。思いがけない問いかけに、ソフィーは改めて自分をみつめ直すことになります。次の手紙には『世界はどこからきた?』と書かれた紙きれが入っています。ソフィーは今いる世界、そして自分自身が誰なのかという疑問について考えます。「わたしっていったいだれなんだろう?」今まで当たり前だと思っていたことが、ソフィーにはとても不思議なことのように思えてきたのです。それからも問いが書かれた手紙が届き続け、簡単な哲学の講義が始まります。どこの誰とも分からない相手からの手紙ですが、ソフィーはいつの間にか哲学の世界に足を踏み入れていくのです。●不思議なことは他にも起こります。ソフィーの元にヒルデという少女宛ての手紙が何度も届きますが、ソフィーはその少女を知りません。ヒルデとは一体誰なのでしょうか。どんな秘密が隠されているのでしょうか。●その謎が少しずつ明かされていくという展開構成となっています。
●『ソフィーの世界』は、手紙を通しのやり取りとなっているため、疑問を投げかけるとそれに対しての回答を得ることができます。●また、ソフィーは「問い」について真剣に考え、自分の答えを導き出したり手紙の差出人に疑問を投げかけたりします。●そして、そのソフィーが導き出した答えは、私たち読者が「哲学」について考えるためのヒントともなっています。●他の教科書や専門書を読むよりもずっと哲学を身近に感じることが出来る作品となっていますので、ソフィーと一緒に哲学について考えてみてはいかがでしょうか。

美しい日本語、正しい日本語

◆美しい日本語、正しい日本語◆

●まず、「美しい日本語、正しい日本語」を身に付けるためには、とにかく「語彙力」を身に付ける必要があると私は考えています。●自分の言いたいことをしっかり伝え、自分の思いを理解してもらうためには、チーズや小麦粉だけではおいしいピザが仕上がらないように、4番バッターだけでは強い野球チームができないように、吹奏楽の演奏で、管楽器だけでは素敵なハーモニーを奏でることができないように、少ない語彙では、自分の思いを相手に伝えることは難しいのです。●持っている語彙が多ければ多いほど、言葉は色彩豊かになり、人の心に届きます。人の心を打つことができるのです。●そして、語彙力を身に付けながら、その言葉を「適材適所」に使う力を養っていく必要もあります。せっかく身に付けた語彙を宝の持ち腐れとしてしまっては、残念だからです。●例えば、面白いと感じながら読んでいた物語でも、突然、違和感のある文章に出会い、興ざめしてしまったということはなでしょうか。また反対に、「雲が流れ、山がわたしに迫ってきた」や「車窓から風が殴り込んできた」という言葉に出会い、本当に風の動きが見えたり、風の強さを感じた経験はないでしょうか。●「ご覧ください」という意味を表す言葉には、「笑覧」「高覧」「清覧」などがありますが、私的なのか、仕事上のことなのか、文章にしたためるのか、話題の人物は誰か、伝える相手は誰かなど場面によって使い分けることができたら素敵ではないでしょうか。●例えば、「天皇陛下がご覧になった」より、天皇陛下に対してのみ使用する最高敬語を用いて「天皇陛下が天覧(叡覧)なさった」と表現した方が締まった表現となり、相手に与える印象も異なってくるはずです。●このように、言葉は適材適所に用いてこそ本来の力を発揮するのです。●さらに、大岡信さんの『言葉の力』でご紹介したように「美しい言葉、正しい言葉」とは、実は、表面的な美しさや正しさではなく、それを発した人の思い、気持ち、その基盤となる人間性が大切でもあるのです。●黒髪の描写において「つやつや」「はらはら」「ゆらゆら」という3種類の擬態語を使い分け、『源氏物語』に登場する女性たちの人格をも表現しきった紫式部のすごさを感じながら、ことわざ、慣用句、四字熟語、故事成語などを含めた、日本語という武器を一生のものとできるように、子供たちには日本語を勉強し続けて欲しいと願っています

ピンク・レディーの未唯mieさん

◆ピンク・レディーの未唯mieさん◆


●本日は、ピンク・レディーの未唯mieさんのインタビュー記事に触れる機会がありましたので、その内容のさわりを紹介いたします。
●ミー(現:未唯mie)さんは、1970年代後半から1980年代初頭にかけて、ケイ(現:増田恵子)さんとピンク・レディーを結成し、ダンス・ミュージック系アイドルとして活躍しました。●「ペッパー警部」でデビューした二人は、、「S・O・S」や「渚のシンドバッド、「ウォンテッド(指名手配)」など9曲連続オリコンチャート入りを果たすなどヒット曲を連発しました。●休み時間になる度に、「UFO」を歌いながら踊る子供たちが社会現象となるなど、その人気はすさまじく、当時小学校6年生であった私に、一世風靡をするとは、この二人のようなことなのだと、実感させてくれました。●私の同級生(女の子)も、ミー役とケイ役になって踊りながら歌っていたことが、今でも思い出されます。
●未唯mieさんは、引っ込み思案な自分を変えたいという思いから、中学校のクラブ活動は演劇クラブを選びます。●クラブ活動をとおして、自分の感情を表現できることに感動を覚えた未唯mieさんは、「人の前に立って自分自身を表現したい」と真剣に考えるようになります。●当時、「夢」について、歌手志望のケイ(現:増田恵子)さんと互いに語り合っていたそうです。●未唯mieさんは、中学校3年生の時、夢(役者になる)を叶えるためにオーディション番組に出場しますが、このことが後のピンク・レディー誕生へつながります。●残念ながら予選で不合格になりましたが、この時、未唯mieさんは、舞台袖で和田アキ子さんが後輩の森昌子さんを膝の上に乗せて頭をなでている姿を見かけます。●親から厳しくしつけられ、親に十分に甘えられなかったと述懐する未唯mieさんは、その姿にうらやましさを感じ、「歌手になれば、先輩からあんふうにかわいがってもらえるんだ」と思ったそうです。●この話を聞いたケイ(現:増田恵子)さんと「一緒に歌手を目指そう」と誓い合い、プロの歌手を目指すことになります。●そして二人は、「プロになるまで決して泣かない。泣いたらビンタする」と約束を交わします。●ピンクレディーとしてデビューするまでには、いくつもの試練があり、苦しい毎日だったそうです。●思うように歌うことができず、レッスンの途中で先生から「レッスンは終わり!」と告げられ、ケイ(現:増田恵子)さんが泣き出してしまったことがあります。●未唯mieさんは、「約束だからね」とケイ(現:増田恵子)さんの頬をたたき、二人で泣いたそうです。●それ以後、プロデビューするまで泣いたことはないと未唯mieさんは語ります。●このようしてピンク・レディーとしてデビューした二人ですが、とにかく多忙な日々を過ごしたことは、引退した後のドキュメンタリー番組で何度か放送されましたので、皆さんもご存じかも知れません。
●ピンク・レディーの誕生には、中学生で「人の前に立って自分自身を表現したい」という強い意志を持ち、一人は役者に、一人は歌手になると「夢」を抱いた二人の少女がいたからなのです。●そして何よりも、「夢」を叶えるための実行力に感動します。「夢」を叶えるための努力に感動します。●もちろん、それを支え合った未唯mieさんとケイ(現:増田恵子)さん、友人(親友)の存在も大きいのです。未唯mieさんは、ケイ(現:増田恵子)のことを「親友」のレベル超えて、最後には「戦友」となったとも語っています。